体内

novel By pegasasudon

「ちょっと、どこにいくの?」慌てて母親が言う。
「大丈夫だよ。」と息子が答える。少しそっけなかったかなっと、思った。だが母の心配を拭おうと思って言ったのだ。どうやらこの息子は、自分のことよりも相手のことを気にしてしまうらしい。この息子である一人の男の体内に話を進めよう。

燃えていた。その様子はメラメラと言うとわかりやすい。しかし、業火の色は赤ではない。いや、赤になろうとしている。そんな色であった。

業火を横目にまっすぐと続く道を進む。どれだけ行けばいいのだろうか。ただ、気になるのは道幅約1.2mに等間隔で並んである扉だ。例えば今横にある扉に入るとする。あなたはどう思いますか?

ある人は「それでいい」と言う。ある人は「考え直せ」と言う。「大丈夫ってなによ」。知っている声が聞こえたが、ここでは関係ない。むしろ、ある人に言われたことは情報なのだ。それは部屋の椅子や机になってインテリアを整えてくれる。

道の途中、73歳と書かれたプレートを首にかけた老人に出くわした。その老人は、今日はタバコが不味いとぼそぼそつぶやきとぼとぼと歩いて行った。

途端、目の前がどんよりとした紫色の雲に覆われる。

恐怖。それ以外なにものでもない。その雲は大蛇や虎に姿を変え猛然と振舞っている。それに、かつての業火が混ざり合った。言おう。業火に意思はない。旋律が走る。歪んだ音、ヘドロの匂い、これでもかと言うばかりに不快だ。不愉快だ。嫌だ。逃げたいのかもしれない。ここに居てはだめだと思いたい。言ってほしい。平気そうに立つ煙草ジジイには期待していない。このままどこか深くへ沈んでしまう。さきほどまで地団太を踏んで確かめた道が今はユルイ。

ふと雲を見ると、紫がかった雲がどこか赤く染まっていた。

そうだ。赤いんだ。

雲は赤い。行けるんだ行けるんだと思うだけでいい進もういや進める今しかない。死にかけていた身体に鞭を振るい起き上がる。鈍い足に力を入れ急いで走り出し、徐々にスピードを上げた。あざやかに駆け出す、そんなことはない。鼻水をたらし、口元には先ほど吐いた少々の吐瀉物、はじめ併走していた老人は殴った。しかし、分かっていた。走っても走ってもこの状況を抜け出せないことは理解できている。それではない。そうではないんだ。走るしかないんだ。

 

 

「あら、おかえりなさい」母親が言った。


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