「トイレで奏でてくる!」
そう言ってサイドステップ混じりに去る後姿を眺めながら、たろうは言う。
「帰ってきたら、ドの音は難しいとでも言うんだろうなぁゆづる君」
窓の外を見るよしこの前には、薫るほどの桜が咲いていた。
「ドの音が出ないんだよなぁ」
「やめてよそこに意味を持たそうとするの。ねぇよしこさん」
「・・・」
ゆづるの奇怪な行動にはなれ、よしこが無口であることに魅力を感じ始めたたろうは、中・高と特に目立つこともなく済ましていた。
ただ、大学では賢いグループに入り賢く生き賢く社会へ飛び立とうと決めていた。
ここで問題が生じる。人見知るたろうには、グループに潜り込むだけの勇気が無かったのだ。
着々と進む入学後の流れに乗れなかったと後悔したときには、堅固な壁を囲む肉塊が3つほどできていた。
もちろん肉でもパンでも端は捨てられるもの。
端に生きよう。そう決めたとき誰かが肩を叩いた。
「俺はゆづる。お前はさとしな。」
突然の突然に驚いたが
「ぼ、僕はたろう。さとしじゃないよ」
「なぁさとし、今から授業でグループ作るらしいからよろしくな!」
「え、あ、うん。そうなの?えーっと・・・」
と答えたたろう。
たろうは分かっていた。このグループは本当のグループになることを。
そして、当の目標にこのゆづるという男は、確実に邪魔であることを。
っていうか嫌いだ。
「んーどうしよぉ・・えーっと悪いけど。」
「こいつもいるから。」
「えっ!?」
眼前を覆う美女(マリア(仮)は、どこまでも美しく、口をパクパクさせるたろうは、発するリズムが刻めないでいた。ようやく。
「よ、よろしくね」