心地いい気温が過ぎ
少しじめじめする雨を嗅ぐ頃
それを避けるようにたろうの家へ向かっていた
「あら、急でびっくりよホントー。もうたろうがお友達を呼ぶなんてママ泣きそうに・・・。お友達と彼女かしら。」
「ちょ、ちょっと!ママのばーか。ママのばーか!お友達だよぅ。さぁ、二人とも入って。貧乏な家で申し訳ないけど。」
学校の帰り、朝から降り続く雨と湿気にやられて、歩くのが億劫であった。
そこでたろうが家に来るよう提案した。
二ヤリとした。
「さぁ、こっちが僕の部屋だよ。」
あまりにもわかりやすい謙遜のあと、家じゅうにある高そうな絵、高そうな壺に、ゆづるとよしこは目を向けていた。
「たろう、お前の部屋にも絵飾ってんだな。この絵は誰が描いたやつなの?」
「え?知らないよ。値段だけ見て買ったからね。とりあえずそこの10万円するソファに腰かけてよ。今から2000円のティーを入れてくるからさ。」
そう言ったあと、ゆづるがおもむろに絵を外しだした。
「え!?ゆづる君なにするんだよ。」
「たろう、よく聞け。お前はこの絵を値段だけ見て買ったと言ったな。」
「そ、そうだけど。」
「たとえば、俺が今からお前をブン殴る。お前は怒るだろうな。そしたら、下にいるマダムはお前を心配したあと、俺を非難するだろう。けど、お前が殴られた痛みは、お前にしかわからない。そうだろ?」
「そ、そうだけど関係なく・・」
「絵も・・絵も痛ぇんだよ!!」
「え、絵も痛い!?」
「そうだ。だから俺が貰うんだよ。俺はみんなの心が分かるセラピストにもなりたいからな。」
「・・・わ、わかったよ。」
これで、正解だよねっとよしこを見るが
うっすら笑顔を浮かべるだけだった
ザーザーと屋根を打つ雨の音に紛れ
よしこのポケットには
たろうの机の上にあった指輪が
影をひそめていた